馬路村農業協同組合
過疎化、高齢化で疲弊する地方の農山村部。そんななか、馬路村では、特産ゆずを使った加工品と村を丸ごとブランド化し、活力ある村づくりに成功。全国的に有名になった。そのけん引役となった馬路村農協では昨年、加工場、配送センター、コールセンターなどが一体となった「ゆずの森新加工場」が完成。今後の事業展開は高い関心を集めている。
新加工場も含め、馬路村農協の「ゆずの森構想」は平成13年に計画が立ち上がった。村おこしの成功事例として全国に名高い同農協には、毎年約300団体が視察に訪れる。「以前からの搾汁施設が手狭になったので、新たな加工場を建設する必要があった。そこで、どうせならこんな山奥まで視察に来てくれた方たちが満足できるような施設の建設を、と考えました」と、馬路村農協の東谷望史組合長は説明する。
面積の96%を山林が占め、かつては林業の盛んだった馬路村。その名残である営林署の跡地を買い、「ゆずの森構想」が進められた。構想では、モノを生産するという機能だけでなく、訪れた人がゆっくりと過ごせることに腐心。加工場玄関までは50メートルの雑木林の歩道が伸び、ベンチも設置されている。農協の職員が自ら重機を使って造園作業を行った手作りの自慢の庭だ。また、村の歴史を大切にしたいという思いから、営林署本庁舎を使った農協本所は当時の建物を活かしてリノベート。森林鉄道のあとなども敷地内に残す。加工場などのほか、農産物直売所やパン工房などを併設し、視察者や観光客が馬路村のさまざまな魅力に触れることのできる交流施設となっている。
「馬路村のイメージにぴったりと来るような施設にすることを目指した」と東谷氏。新工場は外壁にも内装にも地元杉材がふんだんに使われている。黒く塗られた外観は雑木林の中に沈み、その規模からは考えられないほど周囲の景観に溶け込んでいる。場内に足を踏み入れると、杉の香りが漂い、森林浴をしているようだ。まさに馬路村のエキスが凝縮しているかのような空間は、平成18年3月に完成。「ゆずの森構想」全体で総工費約25億円という大事業が、人口わずか1200人あまりの山村で行われたことは、快挙といっていいだろう。
すでに全国に知られる馬路村農協のサクセスストーリーだが、簡単に振り返ってみたい。馬路村は林業を基幹産業としていたが、林業は資源の枯渇や価格の低迷などで徐々に衰退。耕地面積の少ない状況で農業が成り立たないなか、斜面でも可能なゆず栽培が約40年前から始まった。生産量が伸びるが、売り方が定まらない。県内市場では拡大は望めないこともあり、売り方の模索が続いていた。
そこで市場を全国に広げるため、百貨店での催事に積極的に参加。当初はゆず玉や果汁を販売していたが、ゆずを使う習慣がない県外では思うように売れ行きは伸びなかった。そこでポン酢醤油「ゆずの村」を昭和63年に開発。さらにゆずジュース「ごっくん馬路村」が開発された。ゆずになじみのない地域に受け入れられやすい商品にあわせて、「都会にはない空気を届ける」という馬路村を丸ごと売り込む販売戦略があたり、広く全国に市場を持つ商品に成長した。今日、通販による直接販売のシステムを確立し、ゆず加工品の年商は30億円を越える。加工場が手狭になるのも当然だ。このような成長の歩みのなかで、「ゆずの森構想」は誕生した。
「これで自信を持って見学者を案内できるようになった」という新加工場。2階受付の背後にはコールセンターがオープンになっていて、端末がずらりと並ぶ。同組合の顧客32万人という規模が、カタチとなって現れている。見学通路はコールセンター脇を通って、配送センターや加工場内部を見下ろす通路に通じている。ここから瓶詰め工程や商品のピッキングの様子などを見学できるが、まず目を引くのが配送センターで働くスタッフの制服だろう。従来の作業着とはまるで違う、和をイメージした凝った制服だ。「見てもらうことを意識した加工場ですから、これも演出のひとつ」(東谷組合長)。もちろん着ているスタッフも喜んでおり、働き甲斐の創出にもつながっているだろう。見られることで、程よい緊張感のある職場づくりともなっている。また、最新の衛生管理システムを導入し、年々厳しくなる食品の品質管理のハードルに対応。徹底した衛生管理で、安全な商品の提供体制を確立した。
馬路村農協の成功は、馬路村の活性化にも大いにつながっている。なかでも、安定した雇用の提供が村に与える活力は大きい。加工場、コールセンター、配送センターなどで、現在75人が勤務。ゆず生産者などを含めると、さらにその規模は広がる。過疎化に悩む地域の問題点のひとつに、就労の場の不足が上げられるなか、村内やU・Iターンの受け皿としての、同農協の役割は大きい。さらに、視察団体を含め、馬路村に訪れる観光客も、ゆず加工品の全国的な人気とともに増加した。農協が賞品の発送等で同封する村の情報発信が、その一助となっている。現在は年間で6万人の観光客が訪れるが、東谷組合長はさらに20万人にまで増やしたい、と意欲を見せる。また、馬路村農協の事業は組合員だけでなく、地域住民の生活に深く関わる。農協が経営するAコープは、村内で唯一のスーパーマーケットだ。「赤字なんですけどね。やめるわけにはいかない」。
平成の大合併で単独自立を決めた馬路村だけに、今後はますますその責任が重くなる。「ゆずの森構想」の完成でひとつの節目を迎えた馬路村農協だが、一層の飛躍に向けた歩みを止める気配はない。昨年秋には、ゆず原料の化粧品の販売を開始。これまで広告戦略等、手探りの状態だったが、本格的に販売を拡大していく方針だ。今後は、国産原料や植物性といった、ゆず化粧水の持つ特性を活かしたPRを計画。「もっと成長する商品」と東谷組合長は手ごたえを感じている。そしてこれからも新商品の開発を続けるという。”田舎“であることをビジネス資源として活かし成功した馬路村農協の、新しい挑戦が始まろうとしている。
馬路村農業協同組合
安芸郡馬路村3888‐4
TEL0120‐559‐659 http://www.yuzu.or.jp/