第1回:大変な時代

※以下のお話は100%フィクションです※

 

 20XX年11月2日 12月決算の有限会社○△の社長Aは、『恒例の』年末の賞与資金等の申し込みに、会社設立以来30年近く取引のある地場の銀行に新規融資の事前相談に向かった。

 

A社長:毎年のことなんですが、ボーナス等の季節資金をお願いしたいと思いまして…

 

銀行員:毎度ありがとうございます。ところで、先般来お願い致しておりました、試算表の方はどうなっておりますでしょうか?

 

A社長:試算表、試算表ねぇ…まだできてないんだよねぇ…(試算表の方は、会計事務所の処理が遅いから、なかなか出せないんだよ。もう決算も近いし、いらないんじゃあないの? それにしても最近やたら細かいよなあ……)

 

銀行員:社長さんもお聞き及びかもしれませんが、最近は銀行も色々とございまして…

 

A社長:マスコミで報道されているような不良債権問題とか、なかなか大変そうだね。まあ、そういうマクロの話は別にして、今日は例年お願いしている年末資金の融資の件で伺ったんだが…

 

 (やや間をおいて…)

 

銀行員:ずばり申し上げて、ここ数年、御社の業績は赤字基調ですし、今期の状況も当行は把握しきれておりません。(前から頼んでいる試算表、いまだにもらってないよね、分かるわけないでしょ…)

 

A社長:いや、うちの決算は黒字、黒字だよ。決算書にもきちんと黒字がでてますよ…

 

銀行員:ここ数年、減価償却費をほとんど計上していませんね。4年前に店舗改修資金をご融資申し上げましたが、その分の減価償却費さえも決算書に見当たらないのですが…

 

A社長:改修資金の返済だって、きちんと行っているでしょうが。

 

銀行員:いや、返済のことを申し上げているのではありません(おいおい、それは当たり前のことだろうが……)。手形貸し付けの運転資金の方も、残高に変化がありませんよね。

 

A社長:うちは遅れずに利息もきちんと支払っているぞ。

 

銀行員:(だからそんなことは聞いてないの。)社長、今期の決算見通しはどのような感じですか?

 

A社長:売上の落ち込みもそうないし、まあ、去年ぐらいの黒字にはなりそうかな…

 

銀行員:償却ゼロで黒字決算とおっしゃられても…。それに具体的な数字で根拠をお示しいただかないと、我々も行内的にも対外的にも説明できないんですよ。

 

 (若干の重たい間…)

 

A社長:おたくのC常務とは、彼がこの支店でうちの担当者だったころから懇意にしているんだよ。君が銀行に入るずっと前からだよ、えっ…!

 

銀行員:いつもありがとうございます。Cにも社長様のこと宜しく伝えておきますので…(それがなんだっちゅうの…)

 

 1999年以降、銀行は大きく様変わりをした。風景が一変したと言っていいだろう。ところが、このような変化にあまりにも無頓着な経営者が多いのも事実である。間接金融を恃む中小零細企業にとって、銀行との取引は非常に重要である。その大前提となる決算や決算書類は同じく重要である。次回以降解説しよう。

 

つづく
松岡 宣明
松岡宣明税理士事務所 所長
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高知県出身、1961年生まれ。
京都大学経済学部卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て平成9年松岡宣明税理士事務所開業。NPO法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会高知支部・副支部長、高知大学人文学部・非常勤講師。
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