
第10回:優先審査・早期審査制度(短期間で特許をとるための手続)
特許の審査は、特許出願人あるいは第三者が特許庁に対して審査請求を行った後に、審査請求した順に開始されますが、出願件数が多いため、審査請求後もなかなか審査に着手してもらえなかったり、また、審査に長期間を要したりすることがあります(審査期間は平均2年程度です)。
審査結果が出るまでに時間がかかると、我が国の産業競争力の強化の点で望ましくないというだけでなく、権利内容が確定しない状態が続くため、特許出願人にとっても、実施している第三者にとっても、不都合が生じる場合があります。
たとえば、特許出願の内容は、出願から1年半経過後に公開特許公報により公開されますので、公開特許公報の内容を見た第三者が模倣品を販売することがありますが、この場合、特許出願人は、第三者に対して警告することはできても、審査を経て特許権が発生しなければ、権利行使を行うことができません。
一方、第三者は、実施している製品について特許出願人から警告を受けると、出願内容が拒絶されるべきものであったとしても、取引先から不安視されたり、懐疑的な目で見られたりしますので、審査結果が確定しない限り、第三者は安心して実施事業を継続することが難しくなることがあります。
このような出願公開に伴う弊害を除去するために、特許庁長官が認める場合には、審査請求の順番にかかわらず、他の特許出願に優先して審査が開始される場合があります。これが特許法で規定されている優先審査制度です(特許法第48条の7)。
優先審査の適用を受けるには、@出願公開がされていること、A他人がその発明を業として実施している等の条件を満たした上で、所定の事情説明書を根拠となる書類などと共に提出することが必要です。
また、優先審査制度とは別に、審査処理の遅延による弊害を抑えるために運用上行われている早期審査制度というものがあります。これは前述の優先審査制度より簡単な手続で申請することができます。また、審査請求済みであれば、出願公開前に申請することも可能です。
早期審査制度の適用を受けられるのは、たとえば、出願した発明の内容を特許出願人自らが実施している場合・特許出願人とライセンス契約をした第三者が実施している場合(実施関連出願)や、国内出願した発明と同様の内容の外国出願をしている場合(外国関連出願)です。早期審査により、実施関連出願については、特許で守られた安定した事業活動を早く確保することが可能となり、外国関連出願については、国内出願の審査を先行させることで、国際的な特許権の安定化を図ったり、事業活動の国際展開を見極めたりすることができるようになります。
このほか、資力に乏しい個人や中小企業、営利事業を主目的としない大学・試験研究機関や、技術移転機関(TLO)が特許出願人の場合にも、早期審査制度の適用が受けられます(中小・大学関連出願)。中小・大学関連出願については、特許出願人の要請に応じて優先的に審査を開始することで、独創的研究開発や事業活動の支援、基礎的研究成果の早期活用が図れます。なお、ここでいう「中小企業」とは中小企業基本法等に定める中小企業のことで、従業員数や資本の額等について所定の基準を満たす企業です(詳細は特許庁のホームページ等でご確認ください)。
早期審査の適用を受けるためには、特許出願人が特許庁に事情説明書を提出することが必要です。事情説明書には、発明の実施の状況などを記載し、さらにその根拠となる書類や物件を添付します。また、原則として特許出願人自らが先行技術調査を行い、調査結果、及び出願内容との対比説明を記載します。先行技術調査は、特許電子図書館(IPDL:http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl)を利用することができます。
上記のいずれかの事情が客観的に認められ、さらに事情説明書において先行技術の開示が的確であると認められた場合には、早期審査の対象となります。早期審査の対象になった場合、担当審査官は、他の通常の出願案件に優先してすみやかに審査を開始し、着手後の処理も遅滞無く処分が終了するように、審査手続を進めます。審査期間は平均2〜3カ月程度になりますので、早期審査の適用を受けない場合に比べて非常に有利です。しかも、早期審査の申請は無料で行うことができます。
なお、中小・大学関連出願については、必ずしも先行技術調査を行う必要はなく、早期審査の申請時までに出願人が知っている文献を記載するだけでよいことになっています。
また、審査の結果、特許出願に対して拒絶査定がなされ、出願人がこれに不服であるとして拒絶査定不服審判を請求することがありますが、この拒絶査定不服審判においても、早期審査と同様に、他の審判事件よりも優先して先に審理を進めてもらうことができる場合があります。これが運用上行われている早期審理制度です。