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第11回 「中小企業の会計に関する指針」(番外編)

(承前)


 1999年以降、金融機関は大きく様変わりをした。風景が一変したと言っていいだろう。ところが、このような変化にあまりにも無頓着な経営者が多いのも事実。間接金融を恃む中小企業にとって、金融機関と良好な取引関係を維持することは『ライフライン』であり、その大前提となる『決算』や『計算書類』は極めて重要である。色々な場をお借りして、これらの重要性を説いている小生であるが、それが遍く理解されているとは言い難い現状がある…
 実は『会計ルール』は社会の重要なインフラストラクチャーである。『世界共通語』と言っても過言でない。漸く、我が国の中小企業にもメルクマールとなる『中小企業の会計に関する指針』が登場した。この指針は『会計参与』という機関を会社に設ける場合に強制的に準拠すべきルールとして位置づけられているが、現実問題としては、『会計参与』設置会社以外の中小企業も、積極的に会計指針に準拠した計算書類を作成すべきである。もはやそういう時代である。
 以下のお話は、第1回「大変な時代」の2年後のお話である。併せて目を通していただければより理解がすすむだろう。
 尚、予めお断りしておくが、以下内容はフィクションであり、100%筆者の想像の産物である。


 20XX年11月2日
 12月決算の有限会社○△の社長Aは『恒例』の年末賞与資金等の申し込みに、会社設立以来30数年取引のある地場の銀行に新規融資の事前相談に向かった。


A社長:毎年のことなんですが、ボーナス等の季節資金をお願いしたいと思いまして…


銀行員D:毎度ありがとうございます。前任のBからも引き継ぎを受けています。引き継ぎ時に一度ご挨拶に伺いましたDと申します。改めて宜しくお願いします。(なんか、この社長ここ2年で急に数字や会計に五月蠅くなってきたって、B先輩言ってたよなあ。かなりの頑固親父らしいから要注意、要注意!)


A社長:Bさん、大阪支店の方にご栄転だってねえ。なかなか厳しい方だったからなあ。いや、決して嫌みじゃなくてね、Bさんには、随分色々と教えてもらいましてな。(若造のわりに、ずばずばきついことを言ってたよなぁ……またそれが全部、的を射てたから……)
 お恥ずかしいことですが、それまでは私も会計とか決算とかは全く不勉強でしたから、銀行さんのことも全然考えずに無理なお願いばかりしていましたよ。もっとも、Bさんにご紹介いただいたM会計事務所、これがまたいい意味で、そう、今風に言えば「超」厳しい事務所さんでね、最初は教えてもらうというより、叱られてばっかり、やっと最近叱られなくなってきましたわ、はっはっはっ。


銀行員D:はあ……(結構B先輩、色々やってたんだ…)


A社長:はいこれが9月の試算表。と、これが今年の決算見込み。年初の計画よりは若干伸びが足りないけど、まあまあというところですな。


銀行員D:拝見します。(なんか言わないとだめだよなぁ〜。え〜っと……)社長さん、昨年同月比較で9月の経常利益が相当少ないようですが…


A社長:ええ?そんなはずはないよ。どれどれ。………………キャッシュ・フローは対前年比約10%のプラスだし、問題はないと。
 もしかして、減価償却費のことを言っているのかい?今年から月次決算に完全に移行するのに併せて、償却費は毎月の予算額を計上しているからね。そりゃあ去年までは期末に一括して計上していたけどこっちの方が解りやすいとBさんや会計事務所にも言われましてな。
 でも、Bさんは『銀行は償却前利益で全体像をまず把握するんですよ』って言ってたけど、そのへんはあまり引き継ぎを受けていないのかなぁ…(と、ちょっと「嫌み」を言って。で、この人、もしかして決算書とかあまりよくわかっていない???)
銀行員D:いやあ、そうですね、ははは、うっかりしていました。失礼しました。(いやあ、やべぇやべぇ、融資の方はあんまりやったことがない、なんて言えねえよなぁ…)


A社長:決算予測を見ていただきたいんだが、どうしても年末は短い資金が必要になるんだよ。ここ2年で随分改善したけど、あと一歩だな。まぁ何とか来年は銀行さんにご迷惑をかけないようにしなければ、私も息子にバトンタッチできないですな、はっはっはっ。


銀行員D:(う〜ん、気を取り直して…)もうひとつ、この『投資有価証券』ですよねえ、2年前の決算書と前期の決算書とでは、前期の金額が結構減少しているんですが、処分をなさったんですか?あと、同じところにある『繰延税金資産』って、かつて、マスコミで物議をかもしたあれですよねえ。内容は何ですか?それと『資本の部』に▲が計上されているのは何故ですか?資本の▲というのは、銀行から見るとあまり印象がよくないですよねぇ。(よ〜し、完璧だ!!! リベンジ大成功!!!)


A社長:(おいおい、いいのかぁ〜?それを聞くかぁ〜?)Dさんねえ、『資本の部』というのはもう死語だよ死語、今は『純資産の部』だよ、尤も私も会計事務所に教えてもらったんだけどね、はっはっはっ。
 なんでも『中小企業会計指針』とかいうのができて、昨年の会社法改正に併せ、うちなんかの会社の決算もそのルールに従うことになったようだね。
 で、『投資有価証券』だよねぇ、これね、処分なんてできるわけないじゃないの。何年前か忘れたけど、今専務になってるCさんにね、公募増資の時に『是非』ってお願いされてね、取引銀行さんの株だからって思って協力したんだよ。まぁ、あのころ結構景気よかったからね。
 で、この株についてはさっきの『指針』に従い『時価評価』しなくちゃいけなくなったらしいんだ。うちは売るつもりなんかないから、って言ったけど、うちのような場合でも期末で時価評価することになったらしいよ。評価損益は計上しなくてもいいけど、そのかわり『評価差額金』に税効果会計を適用して『繰延税金資産』かなんかが決算書に計上されてるんじゃないのかな。尤もこれも会計事務所さんに教えてもらったことを、偉そうに君に言ってるだけだけどね。
 わしもまだまだ勉強の途中だよ。いやあ会計は奧が深いね。はっはっはっ。


銀行員D:(な、なんだぁ〜?? この社長、何しゃべってるんだぁ???
全然、意味わかんねえよ。あ``〜〜かっこ悪ぅ〜〜。もっと勉強しよう…)そ、そう、そうですね、わかりました。………


A社長:(流石に、『繰延税金資産』や▲の『その他有価証券評価差額金』が『お宅の株の含み損だ!』なんてはっきりは言えないわなあ。でもこの担当、大丈夫かな。)………
(つづく)



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松岡 宣明(まつおか のぶあき)
松岡宣明税理士事務所 所長
〒780-0863 高知市与力町3番4号MAビル
TEL:088(822)8660 FAX:088(822)8662
e-mail:tax007@minos.ocn.ne.jp


高知県出身、1961年生まれ。
京都大学経済学部卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て平成9年松岡宣明税理士事務所開業。
平成11年CFP(ファイナンシャル・プランナー上級資格)試験合格。
NPO法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会高知支部・副支部長、高知大学人文学部・非常勤講師。

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