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高知県立牧野植物園 園長
財団法人高知県牧野記念財団 専務理事
小山鐵夫さん(74歳)
高知の産業立県に貢献することが植物園の使命です

今年、開園50周年、さらに来年はリニューアル10周年と、大きな節目を迎えた高知県立牧野植物園。県民の憩いの場として親しまれる一方で、企業や大学との連携や海外での薬用植物探査など、積極的な研究活動を展開。文部科学省の研究機関指定も受けている。4月1日からは、50周年を記念する「五台山花絵巻」が始まった。「いよいよ、植物園機能の両輪が動き出した」と、リニューアル時に園長に赴任した小山鐵夫氏は語る。植物園の両輪とは何か、話を聞いた。
「五台山花絵巻」が始まりました。
大きな目玉は、南園の整備です。
国内の植物園の多くが、チューリップやケシなどの西洋花を植栽しています。しかし、牧野植物園がある五台山には竹林寺があり、歴史的な背景も濃い「和」の風致を持つ地域です。「洋」という異質の植物はふさわしくない。そこで日本をはじめ、韓国や中国を原産とする植物、東洋的な植物が楽しめる花庭園をデザインしました。中国の桃の花をはじめ、大小さまざまなハスの花、サクラソウなどを植栽しています。園路は日本の回遊式庭園を模し、池を配しました。いわゆる日本庭園を生かした、東洋風の「フラワーガーデン」です。これならば他の植物園と競合することがなく、県内はもちろん、県外からも多くの来園が見込まれると思います。
牧野植物園らしいフラワーガーデンが完成したということですね。
今まで、牧野植物園にはフラワーガーデンというものはありませんでした。というのは、フラワーガーデンの維持には非常にお金がかかる。リニューアル開園前、当時の知事であられた橋本大二郎氏から植物園の方針を聞かれ、最初は経済基盤を確立するためにも、少ない運営費で済む研究型植物園にしなければならないと申し上げた。
しかし、県の観光資源として観光開発に貢献することも、植物園の大切な仕事です。今回の南園整備によって、研究型とフラワーガーデンの両輪がそろい、総合植物園といえる条件が整いました。
ご承知のように、高知県は経済的にだいぶ沈んでいますよね。私は「高知県の立県」ということを考えた場合、従来からの農林産業立県と、美しい自然を生かした観光立県の確立こそが、悪化した経済状況からの脱却につながると思います。そして、両分野についてお手伝いできる構想を持った植物園、それが牧野植物園です。私は、高知の立県に寄与することこそが、牧野植物園のもっとも大切な機能だと思っています。
先行した研究型植物園の取り組みについて教えてください。
当園が力を入れているのが有用植物の研究です。有用植物とは何かというと、食物や繊維としての植物は皆さんご存知ですが、医薬品の処方箋に出てくる成分の83パーセントは植物由来のもので、医薬産業面でも有用植物があります。植物園では、薬用の有用植物の研究に特に力を入れています。
まず比較的短期間で成果を挙げられる研究として、漢方薬の原料植物の県内での栽培に取り組んでいます。漢方薬は従来、乾燥させた葉や根を煎じて飲んでいましたが、現在は抽出成分、エクストラクトを顆粒状にしたものが主流。これは西洋医薬のように薬効が早い反面、非常に大量の原料を必要とします。中国から主に輸入していますが、中国自体の需要が増えて原料が不足していることに加え、農薬等の問題から国産原料が求められています。
このような需要に対して当園では、例えば県中山間地での栽培のために、中国原産のホソバオケラという漢方原料の栽培に取り組み、成功しました。来年終わりには出荷開始の予定で、農薬に汚染されていない高品質の原料を医薬品メーカーに提供します。
中山間地域の振興も期待できますね。
高知県の中山間地は江戸時代の昔から薬用植物の産地として有名で、薬用植物の栽培に適した条件を持っています。今回のホソバオケラの栽培は、中山間地の農業の活性化にも結びつくと思います。さらに、今後は芍薬や柴胡(さいこ)などの漢方原料の栽培も手がける方針です。
海外での植物採集も進めていますね。
これは10年、20年という長いスパンでの取り組みで、「創薬」、新しい薬の開発を進めています。まだ人の手が入っていない海外の地域の植物を収集し、有用性を分析するもので、当園では2000年からミャンマーなどに調査員を派遣し、ラボ(研究室)で分析しています。
ミャンマーには人脈があり、半鎖国状態ながらも牧野植物園のみが植物探索隊を派遣できています。ミャンマーはインド系や中国系植物などの合流点で、1万3000種の植物があるといわれます。すでに、抗癌作用として期待できるものを数種発見したほか、ソロモン諸島では血栓に効くものを1、2種、見つけました。何年か先に、これらを用いた新薬が誕生するのではないかと思います。
ひとつの新薬が完成すれば、そのマーケットは50億円から100億円にも及びます。その工業実施権、IPR(知的財産権)を当園が持つことになります。これによって、可能性として植物園が経済的に潤い、結果的に県の財政も潤う。薬用植物を中心とした有用植物、つまり換金できる植物の研究開発に力を入れてきたわけです。
植物とは、開発の余地がある分野なんですか?
まだまだあります。
植物というのは、全世界で17万種から30万種あります。そのうち、今までに栽培などが行われ、私たちの目に触れる植物というのは300種類しかない。また、有用なことがわかっている植物というのも、たかだか5000種類。残りの16万5000種の中から、まだまだ有用植物の見つかる可能性が非常に高い。
植物の有用活用という考え方はいつからお持ちですか?
有用植物を経済に結びつける資源植物学という学問を、私はアメリカの大学で講義をしていました。植物の研究は面白い。ただ私は、研究したその先がどうなるのかに興味があります。
私が大学生の頃、父に「君のやっている学問が非常に面白いことはわかるよ。でも、それが人間の何の役に立つの」と聞かれたのです。この言葉で、私は植物と人との関わりに注目するようになりました。
植物園が顕彰する牧野富太郎博士の愛弟子でいらっしゃいます。
4、5歳ぐらいのときから、なぜか植物が大好きだった。祖母の虫眼鏡で、庭のコケやハランを観察していました。小学生の頃に父が『牧野日本植物図鑑』を買ってくれて、私は毎日のように読みふけっていたものです。
ある時、牧野先生が出されていた植物雑誌『牧野植物混々録』に先生の住所が載っていた。そこで、自分が書いた写生図などとともに先生に「ご指導を願いたい」と手紙を出した。なんと、それに対して先生は返事を下さった。それ以来、手紙も何度かいただき、中学生の時には先生に教えを受けるためにご自宅に伺えるようにもなりました。
実は、私が先生に宛てた手紙が残っていまして、植物園で所蔵しているんです。リニューアルに際して園長職の就任依頼が来たときには、やはりある種の縁を感じましたね。
リニューアルから10年間の成果は何ですか?
まず、牧野植物園が国際的に知られた植物園に成長したということです。研究基盤が確立し、ミャンマーやソロモンなど海外への植物探索隊も派遣できるようになった。地方の一植物園が研究型植物園として認められ、国際的な機関になったことは、大きな成果だと思います。今後は、南園整備を契機にフラワーガーデンを核にした観光資源としての充実を図りたいと思います。
小山鐵夫(こやまてつお)
〈経 歴〉
理学博士。専門分野:資源植物学、種子植物分類学、植物園学。
1933年東京生まれ。東京大学理学部卒。東京大学大学院生物系研究科博士課程修了。東京大学理学部助手、カナダ農務省中央研究所研究員を経て、NY市立大学教授・NY植物園首席研究官兼アジア部長。この間、デンマーク国立オールフス大学客員教授、琉球大学農学部客員教授、国際機関アジア蔬菜研究発展センター理事等を歴任。現在、高知大学理学部客員教授、(財)日本生態系協会理事、(財)日本花の会理事、(社)園芸文化協会研究顧問、ISME国連代表、UNESCO新熱帯植物調査機構評議員、日本研究植物園連合会長 等。
〈主な著書〉
『資源植物学』(講談社、1984)
『資源植物学フィールドノート』(朝日新聞社、1992)
『植物園の話』(アボック社、1997)
他、学術論文270余篇。
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