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株式会社アリサワ/レストラン・マリソル/さくらベーカリー
小さなイノベーションが生んだ大きなビジネスチャンス
2005年秋号掲載
酒蔵、レストラン、ベーカリーのコラボレーションで生まれた新食感食パン「土佐酒粕パン・文佳人」
香美郡土佐山田町の酒蔵とレストラン、ベーカリーという異色のコラボレーションによって生まれた酒粕を使った食パン「土佐酒粕パン」が密かなブームを呼んでいる。これは、白神こだま天然酵母と国産小麦に純米吟醸酒の酒粕を混ぜて焼き上げたもので、酒粕の生みの親である純米吟醸酒「文佳人」の名称そのままに販売されている。表面のザクザクとした食感とほのかな甘みが人気の秘密だ。
酒粕パンは当初、同町内のレストラン・マリソル(土佐山田駅前)のモーニングセットで使うことを目的に開発されたもの。開発したのは、同町西本町一丁目の酒造会社「アリサワ」五代目、有澤浩輔氏、レストラン・マリソル店長の有澤亮二氏(浩輔氏の弟)、同町百石町一丁目の「さくらベーカリー」店主、明神充氏。
有澤(浩)氏は自社商品の純米吟醸酒「文佳人」の製造過程で出る酒粕の良い利用法がないかと検討。インターネットでパンへの用途を知り、明神氏に商品開発を呼びかけた。明神氏は、酒粕の分量や味のバランスなどを試行錯誤し、ついに完成。「こんな食感のパンは初めて」とこの道20年のパン職人、明神氏自らも太鼓判を押す食パンが誕生した。
小さなイノベーション、そして互いの長所を生かした身近なコラボレーションが、魅力ある商品づくりを実現した。酒粕パンという新たな食の提案が、消費者の心を刺激し、新たなビジネスチャンスを開こうとしている。
「土佐酒粕パン・文佳人」の生みの親である三氏に、その誕生秘話について聞いた。
酒粕をパンづくりに使おうと思ったきっかけは?
有澤(浩)氏----
当社で出る酒粕は、低価格のお酒から出る黒っぽいものと、吟醸酒の真っ白な酒粕の2種類。真っ白な酒粕は、調味料としては好まれますが、漬け物には向きません。当社では、結局それらを混ぜ合わせて漬け物用として業者に販売していたんです。
せっかくうま味のたっぷりと残った吟醸酒の酒粕を無駄にしてしまうのは、もったいないなと。
それほど違うものですか?
有澤(浩)氏----
まず、米の種類が違います。当社の純米吟醸酒「文佳人」は、県農業技術センターが開発した県内産の酒米「吟の夢」を使用しています。
そして色。米を磨き上げて使っていますので、酒粕は真っ白なんです。
それに、絞り方も違います。通常は圧搾機のエアコンプレッサーで絞りきってしまうので、酒粕は、ぱさぱさの板状になります。当社は機械を持っていないので、酒槽(ふね)と呼ばれる木の箱を使ってじっくりと絞り出します。
当然、絞りきれないのですが、これが酒にとってもいいし、酒粕にとっても成分やうま味が残ることになるんです。
なぜパンだったのですか?
有澤(浩)氏----
粕汁や甘酒といった料理での使い道しか想像がつかなかったんですが、実は、私自身はあまり好きじゃない(笑)。そこで参考になったのが、千葉にいる私の叔母がやっている「酒粕倶楽部」というブログ。そこで、本人やクラブ員が持ち込んでいたアイデアの中に酒粕を練り込んだパンがあったんです。
早速、知人のホームベーカリーで作ってもらったら、これがおいしい。いわゆる酒粕のにおいはなく、チーズを練り込んだような印象でした。
ちょうどその時、(弟の亮二氏が店長の)マリソルがモーニングセットをやろうと考えていたので、せっかくなら、このパンを使ってはどうかと。
そこで、マリソルのモーニング用にということで、地元でこだわりのパンづくりをされているさくらベーカリーさんに相談したんです。
相談を受けての印象はいかがでしたか?
明神氏----
果たしておいしいものができるか疑問でしたね。実は以前、別の酒蔵さんから酒粕でお菓子みたいなものつくれないかと持ちかけられて、うまくいかなかったことがあったんです。でも、酒粕を見ると、以前挑戦したときのものとは、香りも色も全く違う。上品で、食べてみるとまろやかな味わいで、「これはいける」と感じました。
通常の商品開発に比べて苦労も多かったのでは?
明神氏----
酒粕に甘さがあり、また酵母も生きている状態ですので、当店で使っている酵母とのかねあいや、室内の温度、発酵機の温度設定、発酵時間など試行錯誤の連続でした。
作り方や味わいに大きな差が?
明神氏----
酒粕パンには、国産小麦粉と白神こだま天然酵母を使用していますが、通常に作った白神―とはパンのでき方も味わいも全く違います。もともと国産小麦と天然酵母の組み合わせは発酵時間が長くかかります。しかし、酒粕を練り込んだおかげで、酒の酵母と白神―との相乗効果によって、通常の3分の2ほどの時間で膨らんでくれました。
焼き上がってみると、それはびっくりしましたね。パンづくりを20年やっていますが、こんな食感のパンができるものかと、感動しました。
有澤(亮)氏----
トーストにしたら、さらにおいしい。表面はザクザクとしているのに中はもっちりとした食感。かむとほのかに酒粕の甘い香りがするんです。これほどおいしく仕上がるとは思いませんでしたね。すでに始めていたモーニングサービスのトーストやホットサンドに使ったところ、たちまち評判になって、「家でも食べたい」とか「1枚からでも持ち帰りたい」という声もあって、これは商品化すべきだと思ったわけです。
「土佐酒粕パン・文佳人」の商品化は、皆さんにとって大きな成果をもたらしたと思いますが。
有澤(亮)氏----
マリソルでは、このパンのおかげで新規のお客様や、遠方からのお客様も増えてきています。商品そのものの売れ行きも好調で、取り置きのお願いなどもあります。「文佳人」効果は大きいですね。
明神氏----
「文佳人」の売れ行きもそうですが、私自身のパンづくりの視野が開けたことも大きい。最近では、ある農家さんから「ヤーコンを使ったパンを作ってほしい」とか、碁石茶を使ったパンづくりの相談なども話が持ち込まれました。
また、新しい魅力を持ったパンづくりという点では、お客様からの期待感も非常に感じます。確実にイメージアップになっていると思います。
有澤(浩)氏----
「文佳人」という名前で商品化させていただいており、ラベルには当社の純米吟醸「文佳人」のラベルと同じ筆書きの書体を使っていただいています。このパンが売れることで、日本酒を普段飲まれない方や興味の無かった方に、「文佳人」の名前を知っていただく貴重な機会にもなっています。
明神氏----
この有澤さんの奥様のデザインのラベルが非常に評判いいんです。さくらベーカリーのパンとして売ったのでは、ここまで話題にはなってないと思いますよ。「文佳人」という銘柄を前に出したことで、注目度も上がっているし、酒粕パンという提案も効果的に伝わっていると実感しています。
首飾り一つとっても、これまでのパン屋にない発想。さくらベーカリーの酒粕パンというより、「文佳人」というブランドの食パンですね。
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