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高知発! 宇宙ビジネス

土佐宇宙酒と宇宙を旅したヨーグルト

2006年冬号掲載

 夢とロマンに満ち溢れた宇宙。太古より人類があこがれ、19世紀末から20世紀半ばの急速な科学技術の進歩は、人類を宇宙空間へと導き、1969年には初めて月面に降り立った。アームストロング船長の一歩は、まさに「大きな一歩」であった。それから40年が過ぎようかという現在、そんな宇宙計画とは無縁にも思える土佐の高知から「土佐宇宙酒」が誕生した。追って「宇宙(を旅した)ヨーグルト」も誕生した。2007年3月には、新たな「土佐宇宙酒」も誕生しようとしている。
 宇宙開発のための産業ではなく、宇宙そのものを商品にしたこのユニークな取り組みは、高知県宇宙利用推進研究会(鈴木朝夫会長)、通称「てんくろうの会」と高知県酒造組合(竹村彰夫会長)、そして宇宙への橋渡しをした有人宇宙システム株式会社(本社:東京、松井隆社長)などの強力タッグにより実現した。
 「てんくろう」とは天を喰らう人という意味で、「大ぼら吹き」にあたる土佐弁。土佐人が宇宙利用!?などという「てんくろう」な話を、真剣に、そして実現した「てんくろうの会」。その発足に奔走し、誰よりも「土佐宇宙酒」の誕生を喜んだのが、同会幹事の日和崎三郎氏。
 日和崎氏の思いに賛同した県内外の有志による宇宙ビジネスへのチャレンジが始まったのは、2002年からだった。


<<< 大きな一歩 >>>
 宇宙事業は国家的なプロジェクトだけに、民間企業が関わっているとしても一部の大手企業か、特殊な技術を持つ先端企業に過ぎず、決して開かれた産業とは言えなかった。
 しかし、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙産業のさらなる発展を目指し、民間企業へのアウトソーシングや、2008年に完成が予定されている※国際宇宙ステーションの民間利用などに積極的な姿勢を示し始めている。こうした動きに加え、有人宇宙システムのような宇宙開発関連ビジネスを手掛ける企業の活動も活発化してきており、それが中小企業や地域の企業、大学へと広がって、宇宙ビジネスが新たな産業として注目されるようになってきた。予定通りに国際宇宙ステーションが完成すれば、宇宙ビジネスはさらに加速していくだろう。
 「てんくろうの会」が発足したのは4年前。国際宇宙ステーションをいち早く利用し、すでに「宇宙商品」を世に出している。この高知発の宇宙ビジネスは、小さく見えても間違いなく「大きな一歩」だ。


※地上約400km上空に建設が進められている巨大な有人施設で、1周約90分の早さで地球の軌道上を廻っている。現在アメリカ・ロシアをはじめ欧州・カナダなど世界15カ国が参加しており、日本も実験棟「きぼう」で参加している。


<<< 「宇宙」で産業振興を >>>
 ようやく景気回復の兆しは見え始めたといいながら、ローカルの企業にとってはその片鱗すら見えなかった2002年頃、自社も含めて元気のない県内企業をなんとか活性化しようと模索していた日和崎氏。大手電機メーカーとの関わり合いの中で得られたいくつかのビジネスアイデアの中で、「宇宙」というキーワードにピンと来た。
 「宇宙開発の分野が民間企業に開かれれば、地域企業にもチャンスがあると考えたんですね。すでに企業の進出は中国やベトナムなどが主流で、企業誘致は困難になっているが、宇宙という新しい切り口なら可能性があるかもしれない。県内の産業振興にもなるだろう。要するに、20億か30億の箱モノを作って、大手電機メーカーが設備機器を導入して、コンテンツの部分を地域企業がコラボレーションでやってはどうかということだったんです」(日和崎氏)。コンテンツとは、宇宙飛行士の訓練や宇宙空間の模擬実験、バイオ研究などだ。日和崎氏は知人や県関係者らへと働きかけたが、実現性に乏しく、残念ながら構想に終わる。
 しかし、関係者らの「宇宙」への関心は高く、手応えは残った。さらに、ニュースラボ社社長の池本氏から紹介を受けていた有人宇宙システムの存在が新たな可能性を開くこととなった。

<<< 宇宙を利用するビジネスへ>>>
 宇宙産業といえば、先端技術を駆使したシステム開発やロケット関連部品開発、人工衛星を利用した気象や通信、地球観測に関わるビジネスといったものが思い浮かぶ。これらは、地域企業が取り組むにはちょっと敷居が高い。日和崎氏の当初の構想が頓挫したのも無理はない。
 しかし、国際宇宙ステーションを利用することで考えれば、バイオ産業や素材研究など、その範囲は飛躍的に広がっていく。いわゆる宇宙利用だ。有人宇宙システムでは、こうしたビジネスチャンスを民間企業に、特に地域の企業へと提供したいと考えていた。コンテンツのみにしぼって可能性を探っていた日和崎氏にとって、新たな道が開かれた。
 「ハイテクがなくても、地域の中小企業でも宇宙利用のチャンスはあった。いわゆるバイオの分野。といっても最先端の研究ということではなく、みそや醤油、キノコなど、県内には優秀な研究者もいる。中でも高知ならではの伝統的な産業、酒造りなんかどうだろうとなったわけです」(日和崎氏)。 2002年 10月、元高知工科大学副学長で当時高知県産業振興センター・プロジェクトマネージャーであった鈴木朝夫氏を会長に、県内の経営者や大学関係者、県関係者ら有志で、高知県宇宙利用推進研究会は発足(ニックネームをてんくろうの会とした)された。高知県の資源を使用し、「宇宙」を利用したビジネスを新たに創出することを目的とした研究会だ。偶然にも、鈴木氏がその10年前に宇宙飛行士の毛利衛氏らとともに、宇宙開発事業に携わっていたことも、研究会発足の大きな弾みとなった。


<<< 宇宙酒プロジェクトの実現>>>
 日和崎氏の「宇宙酒を飲んでみたい」から始まったとも言える「てんくろうの会」。宇宙酒プロジェクトは、焼酎ブームや低価格な発泡酒の消費拡大に押されて低迷する日本酒業界にあって、危機感を強めていた高知県酒造組合にとっても朗報だったに違いない。
 2005年の4月に宇宙酒委員会を立ち上げ、約1200万円の費用のうち700万円を組合と県の補助金でまかない、残りは賛同する企業などが負担。その後の紆余曲折を乗り越え、10月1日、ドライ酵母、ウエット酵母などがカザフスタン・バイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、国際宇宙ステーションで10 日間を過ごし、11日に帰還した。
 高知県酒造組合では宇宙から帰還した吟醸酵母6種と県産酒造好適米の「吟の夢」か「風鳴子」を精米歩合55%以下で造る純米吟醸酒を「土佐宇宙酒」としてブランド化。さらに宇宙酒委員会の官能検査のクリアも条件とし、味と質を追求した。
 そして翌2006年4月1日、ついに「土佐宇宙酒」が世界同時発売となった。米のなかった酔鯨を除いて県内のすべての酒蔵から発売された。
 その直前の3月30日、2回目のロケットが打ち上げられている。
 2回目の打ち上げは、ロシア側と有人宇宙システムとの契約上の不備などから同社の負担によって打ち上げられたもので、このロケットに、ひまわり乳業株式会社(吉澤文治郎社長)の乳酸菌2種が搭載された。


<<< 世界初! 宇宙を商品化 >>>
 日和崎氏は力説する。「何がすごいって、世界で初めて宇宙を商品にしたんです」。かつて宇宙開発によって生まれた技術や製品が商品化されたり、様々な分野に生かされたりすることはあっても、宇宙をひとつの付加価値として消費者にアピールし、宇宙をこれほどまでに身近な存在に感じさせてくれる商品はなかったかもしれない。そして何より「売れる」ことを証明し、宇宙ビジネスの可能性を広げたと言っていい。
 国際宇宙ステーションが完成して商業利用も活発化すれば、ステーションへの輸送コストの低価格化も考えられる。新たな打ち上げの機会も期待できるはずだ。


<<< 夢をカタチに、カタチをお金に。>>>
 「宇宙酒プロジェクトをきっかけに各蔵の杜氏さんたちのモチベーションが高まったと聞いています。事実、すばらしい酒を造っておられる。話題性に負けない味わいです。その姿勢を継続して、やっぱり酒蔵さんに儲かってほしい。
『夢をカタチに、カタチをお金に』が私の信条。3月21日に発売される新しい『土佐宇宙酒』がさらにおいしくなっていることに期待したいですね」(日和崎氏)。
 宇宙との組み合わせで何がチャンスになるかは、わからない。突然、自社の技術や商品が宇宙で必要とされることだってあるだろう。自社の資源が、宇宙に行くだけでさらなる輝きを持つこともあるかもしれない。大切なのは、柔軟に、そして夢を持ってビジネスと向かい合うことかもしれない。


<<< 「宇宙」から高知を元気に >>>
 「空元気でも夢のある話をして、高知県を元気にしたい」というのが日和崎氏の考え。「てんくろうの会」では、宇宙酒プロジェクトだけでなく宇宙飛行士の招致や宇宙体験イベント、宇宙少年団の高知地区分団結成の準備など、教育、啓蒙活動にも力を注いでおり、地域を「宇宙」で明るく元気にしてくれている存在でもある。こうした活動は、次代を担う少年少女に夢を与えるものだ。「てんくろうの会」は、ビジネスと地域貢献での活躍が認められ、第21回龍馬賞を受賞した。
 海から日本を見て、新しい日本を創った坂本龍馬が生まれたように、宇宙から地球を見て、新しい地球を発想する。将来、そんな人材がこの高知から生まれたら・・・と思うのは「てんくろう」なことだろうか。


「土佐宇宙酒」は、真価が問われるセカンドステージへ
 宇宙を旅した日本酒酵母を使い、高知県酒造組合に加盟する17蔵元が仕込んだ「土佐宇宙酒」。2006年4月1日の一斉発売直後に大半を出荷するという異例の売れ行きを見せ、1年を待たずして完売となりそうだ。
 同組合としても大きな手応えを感じており、3月21日に発売となる本年度仕込み分の「土佐宇宙酒」にさらなる期待を寄せている。
 二世代目となる「土佐宇宙酒」は、前回のものと少し異なる。前回は宇宙から帰ってきたドライ酵母を使用していたのに対し、今回はウェット酵母を使用する。前者が「宇宙を旅してきた」酵母であり、後者は「宇宙で生まれた」酵母だ。
 同組合の竹村彰夫会長は、「生きている元気な酵母を使っているので、味や香りがさらに引き立ったものになっているようだ」と期待している。また今回は、初回に米が無く生産できなかった酔鯨酒造も足並みをそろえての発売となる。
 同組合では2月22日、発売に先だって東京・銀座においてマスコミや酒販店、業務筋の関係者を集め、試飲会を予定している。「話題性だけでなく、その質の高さを知っていただいて、販売につなげていきたいと考えています」(竹村会長)。
 話題性が先行した前回とは違った滑り出しとなることが予想される。「土佐宇宙酒」は、真価が問われる一年を迎えようとしているようだ。
 「土佐宇宙酒」は、話題性と売上で県内の酒造業界に活気を与えた。竹村会長は「土佐宇宙酒づくりは各蔵の杜氏が緊張感を持って臨んだ。そのおかげで、宇宙酒はもちろん、他の酒も非常にレベルが上がっている」と話す。これも宇宙ビジネスへの取り組みが生んだ、大きな成果だ。
 また、2008年に発売が予定されている「土佐宇宙酒」は、宇宙から帰ってきた「米(農業試験場において種籾を栽培中)」が使われることになっている。


高知県酒造組合
高知市本町2丁目3-10
TEL088-823-3558


宇宙を身近な存在にした「宇宙を旅したヨーグルト」
 「土佐宇宙酒」に続いて高知発、宇宙ビジネスの第2弾として誕生したのがひまわり乳業株式会社の「宇宙を旅したヨーグルト」だ。これは、2006年3月に打ち上げられたロシアの宇宙船ソユーズで宇宙を旅した乳酸菌によって生まれた”世界初“のヨーグルト。同社が2006年9月に商品化し、好調に売れている。
 宇宙へと旅立ち、無事に帰還した乳酸菌は、ひまわり乳業が独自に奈良漬けから採取した植物性乳酸菌「パラカゼイ菌」(免疫バランスを整える力に優れており、北海道大学と共同で特許出願中)と、「ブルガリア菌」の2種類。
 「宇宙」という話題性だけでなく、「味や健康面にもこだわった」(吉澤文治郎社長)という「宇宙を旅したヨーグルト」。健康志向で食べやすく、商品力も高い。
 また、「宇宙」や「宇宙飛行士」をあしらったパッケージは、これまでのヨーグルトにないインパクトがあり、子を持つ親や子どもたち自身に、「夢」や「ロマン」を感じさせる。さらに、商品(飲むヨーグルト以外)にはQRコードが付いており、読み取り機能のある携帯電話で読み取ると、吉澤社長がカザフスタン、バイコヌール基地で撮影した打ち上げ映像を見ることができる。家庭や食卓に「宇宙」を持ち込んだ画期的な食品だ。いかにも「てんくろうの会」との共同企画らしい商品になっている。
 現在同社では、ホームプラネタリウムや天体望遠鏡、星屑アンブレラが当たる「クイズに答えて宇宙を夢見るプレゼント」も実施しており、消費拡大と宇宙への興味の喚起を促している。


ひまわり乳業株式会社
高知市与力町3-10
TEL088-822-6245

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