第94回:賞金は賞金でもノーベル賞は???

(承前)
今年の2月の平昌オリンピックでは、日本選手団は、金メダルが4個、銀メダルが5個、そして銅メダルが4個と合計13個のメダルを獲得して冬季では長野大会の10個を超える大躍進となった。

 

又、それぞれのメダリストに対して、公益財団法人日本オリンピック委員会(以下JOC)や選手達が所属している競技団体、あるいは選手が所属している企業からの報奨金が支給されるというニュースが、連日マスコミを賑わしたのも記憶に新しいところである。

 

で、気になるのがこの話。
『メダリストがもらう報奨金って、税金はどうなるのでしょうか?』

 

基本的に選手個人がもらうことになるから所得税の世界の話となる。
で、今回のオリンピックの賞金は所得税法上では「一時所得」(所得税法34条)に該当するケースが一般的である。尤も、選手の所属企業からの報奨金については、ボーナスであれば「給与所得」(所得税法28条)に該当すると思われるが、最終的にはどのように支給されるか?で課税関係がかわってくる。(所得税法は結構ややこしい!)

 

(一時所得)
第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。(以下省略)

 

条文の下線の部分を読めばわかるがオリンピックメダリストがもらう報奨金は一時所得に該当することになりそうである。更に、所得税法第9条には「非課税所得」を規定している条文があり、次の様になっている。。

 

(非課税所得)
第九条
 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
十四 オリンピック競技大会又はパラリンピック競技大会において特に優秀な成績を収めた者を表彰するものとして財団法人日本オリンピック委員会、財団法人日本障害者スポーツ協会その他これらの法人に加盟している団体であって政令で定めるものから交付される金品で財務大臣が指定するもの

 

この報奨金にかかる所得は「非課税」となって、一定限度額までは所得税は課税されないことになっている。平成22年の財務省告示第102号によれば、JOCの規定により支払われる金品と、JOC加盟団体から支払われる金品のうち一定額まで(金メダル300万円、銀メダル200万円、銅メダル100万円)は非課税とされている。

 

つまりJOCからのメダル報奨金は非課税、JOC加盟団体からのメダル報奨金は金メダルなら300万円までが非課税となり、それを超える報奨金や、それ以外の所属企業などから支給される報奨金には課税されるという結論になる。

 

では次の質問はどうだろう。
【質問】ノーベル賞の賞金って、所得税かかるのかしら?

 

前段を読まれ方なら、「所得税法第九条をみればわかるのでは?」と閃くであろう。仰るとおりで、以下の様に規定されている。

 

(非課税所得)
第九条 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
……………………
十三 次に掲げる年金又は金品
イ 文化功労者年金法第三条第一項(年金)の規定による年金
ロ 日本学士院から恩賜賞又は日本学士院賞として交付される金品
ハ 日本芸術院から恩賜賞又は日本芸術院賞として交付される金品
ニ (省略)
ホ ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品
……………………

 

これまで日本人でノーベル賞を受賞したのは日本国籍の受賞者で23名、アメリカ国籍を持っている日本出身の受賞者が2名、イギリス国籍を持っている日本出身の受賞者が1名となっている。
因みに今まで受賞した部門は物理学賞が11名(アメリカ国籍の2名を含む)、化学賞が7名、生理学・医学賞が4名、文学賞が3名(イギリス国籍の1名を含む)、平和賞が1名である。

 

今年も10月になるとまたぞろ賑やかになるノーベル賞の話題。
税金の観点からいうと賞金900万スウェーデンクローナ(2017年実績)は現在(2018年8月23日)の為替相場で換算すると1クローナ=12.183857、約12.18円としたら109,620,000円となるが、前述の通り、この賞金には所得税法第九条の規定により所得税は課されない。メデタシメデタシ、となりそうである。

 

が、ここに一つのトリビアが隠されているのだ!!!

 

ノーベル賞には物理学賞、化学賞、医学・生理学賞、文学賞、平和賞、経済学賞の6つがあり、今まで日本人が受賞したのは物理学賞から平和賞までの5つのノーベル賞である。経済学賞を受賞した日本人は現時点ではいない。

 

実はこの経済学賞、経済学における最も権威のある賞であることは間違いないが、ほかの5つの賞とはその歴史的背景が異なっているのである。Wikipediaによれば;
1968年にスウェーデン国立銀行が設立300周年祝賀の一環として、ノーベル財団に働きかけ、設立された賞である。「ノーベル経済学賞」は通称として広く用いられているが、ノーベル財団は、同賞は「ノーベル賞ではない」として後述の正式名称を用いるか、単に「経済学賞」と呼ぶ。スウェーデン王立科学アカデミーにより選考され、ノーベル財団によって認定される。授賞式・その他一般はノーベル賞と同じように行われている。
王立科学アカデミーは新しいノーベル賞として設立を承認したものの、アルフレッド・ノーベルの子孫やノーベル文学賞の選考を行うスウェーデン・アカデミーは賛成していない。
』(一部省略)とされている。

 

で、このノーベル経済学賞の受賞者に対して渡される賞金は『ノーベル基金』から拠出されるものではなく、『スウェーデン国立銀行』が賞金を拠出しているのである。

 

するどい御仁はこの段階でピンとこられたのではないだろうか。
我が国の所得税法では上述の通り、「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」には所得税を課さないと規定しているが、「スウェーデン国立銀行からノーベル賞として交付される金品」は所得税を課さないとは規定していない。当たり前のことではあるが、所得税法に限らずほかの税法でも「非課税」と規定されているものについては法律に「書かれているもの」だけが対象であり、書かれていなければ、「非課税の対象
にはならない。

 

で、結論。
『ノーベル賞の賞金でも経済学賞の賞金には、現時点の法律状況では我が国の所得税が課税されてしまう』ということになる。

 

やはり、これは問題があるといわざるをえない。
まさに「法律の不備」であるわけで、早急の税制改正を要望したいと、毎年税制改正建議(税理士法第四九条の一一)の際に、小生、個人的に言っているのだが…………(*^^)v0

 

『もし、今年のノーベル賞の発表でノーベル経済学賞を日本人が受賞したら』と毎年ヒヤヒヤしながら眺めているのである。

 

(続く)

[2018年8月30日掲載]

松岡 宣明
松岡宣明税理士事務所 所長
〒780‐0863 高知市与力町3番4号MAビル
TEL 088(822)8660 FAX 088(822)8662
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高知県出身、1961年生まれ。
土佐高校から京都大学経済学部へ。卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)を経て、平成8年税理士試験合格、平成9年松岡宣明税理士事務所開業。NPO法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会高知支部所属、高知大学人文社会科学部・地域協働学部の非常勤講師。
https://www.facebook.com/Matsuoka.tax007



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