第71回:喜多方に見る街づくりの結束力と持続力(上)

 10月下旬の平日の午前7時半すぎ。福島県喜多方市にある「まこと食堂」の引き戸をあけて中に入ると、そこはすでに満席に近い状態だった。
 前日の夜7時前に郡山市からJR磐越西線の各駅停車を2本乗り継いで、ようやく喜多方駅に到着した。福島県有数の観光地といえども、駅前から伸びる商店街はすでに暗く、いくつも訪れたいと思っていた喜多方ラーメンの店もほとんどが閉まっている。

 いくぶんがっかりして旅館の人と話していると「喜多方には朝ラーメン、通称『朝ラー』がありますよ」というではないか。夜は旅館近くの居酒屋で喜多方の地酒と地の食材を楽しみ、ラーメンは翌朝と昼にとっておくことにした。
 朝7時前に目を覚まし、散歩もかねて喜多方の街を散策する。前日訪れた居酒屋の前には酒蔵がある。どおりで福島県、特に喜多方市の地酒が充実しているわけだ。噂通り、蔵が並ぶ町並みは統一感があり、美しい。

 飲み屋街にもスナックや居酒屋にはさまれるように、喜多方ラーメンの店がある。ただほとんどの店はまだ閉まっている。平日の朝だから、さすがに観光客は少ない。だが30分ほど散歩してたどりついたまこと食堂で、その印象はすぐに覆された。
 いかにも観光客という感じの人もいないわけではないが、むしろ出勤途中に立ち寄ったのかのようなサラリーマンや建設作業員風の人が多い。メニューを見て悩んだり、店内をきょろきょろと見回したりはせず、さっさと注文し、さっさと食べていく。喜多方に「朝ラー」の文化がしっかりと根付いていることをうかがわせる光景だった。

 メニューは中華そば(650円)のほか、チャーシューメン(950円)やソースカツ丼(1000円)などでごくごくシンプルな構成だ。群馬県などでさまざまなソースカツ丼を食べてきた私としては、ぜひ福島のソースカツ丼も賞味してみたかったが、そもそもの目的が喜多方ラーメンだったことを思い出し、中華そばを注文した。
 待つこと10分ほど。昔ながらの唐草模様のどんぶりに盛られた中華そばがやってきた。お漬け物の小皿がついてきたことに珍しさを感じた。豚骨と煮干しの出汁を使った醤油ベースのスープに喜多方ラーメンの特徴である平打ち麺。それにネギとメンマに薄切りのチャーシュー。
 一口食べてみると「これぞ喜多方ラーメンの王道」と感じる懐かしさを感じさせる味だ。麺はもっちりとしていて絶妙な食感だ。麺とうまみのあるスープのバランスがとれていて、あっという間にスープも含めて平らげてしまった。

 午前に一仕事をすませて、昼食用の2軒目のラーメン屋を探して市街を歩き回った。喜多方ラーメンの御三家といえば、同じく朝ラーをやっていて塩ベースのスープである坂内食堂だ。だがあいにくと臨時休業であることを朝の散策でおさえていた。
 昭和初期から市内で営んでいる中華料理の「源来軒」は、喜多方ラーメンの元祖といわれる店だ。だがここも国道の拡張工事のためやっていなかった。
 そこで最近、人気のあるらしいマーケット横丁にある「あじ庵食堂」に入る。小さい店内が、今度はカップルなど観光客で満杯だった。

 頼んだのは少し変わり種の「塩山葵(わさび)肉そば」(950円)。平打ち麺であることは普通の喜多方ラーメンと変わらないが、スープは塩味で、分厚いチャーシューと白髪ネギと、おろしたてのわさびがトッピングされている。わさびの辛さが塩ベースのスープと混じり合い、これも癖になりそうなおいしさだった。
 喜多方への総滞在時間は1日にも満たなかったが、蔵とラーメンを核に観光客を飽きさせない仕掛けがしっかりとできていることを十分に感じることができた。

 さて、喜多方市の観光地としての実力はどの程度のものだろうか。2013年の福島県観光客入込状況によると、喜多方市の2013年の観光客数は前年比4.4%増の222万人だった。福島市の651万人(3.9%増)、NHKの大河ドラマ『八重の桜』でわいた会津若松市の439万人(69.7%増)などには劣るものの、たかだか人口が5万人あまりの市としては、驚異的な集客力である。
 さらにその実力がわかるのは県内の観光客数の多い観光地のランキングである。喜多方市街は120万人で前年比11%増で、「市街」としては『八重の桜』ブームで89%も伸びた会津若松市街の103万人を上回っている。つまり街そのものとしては「福島県最強」なのだ。


 しかし会津若松市などが多少の変動はあっても昔からの観光地であるのに対して、喜多方市の1975年の観光客数は10万人にも満たなかった。それがなぜ今のような観光地になり、しかもその強さを保ち続けていられるのか。次回はその理由を考えることにしよう。
[2014年11月24日著]

 

【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、新聞社に就職。企業関係や地方支局を担当。現在は経済関係部署でデスクを務める。感想などはkitamitakaita@gmail.comまで。


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